弁円悔悟

 

 板敷山での祈祷・待ち伏せに失敗した弁円は猛々しく稲田の草庵に踏み込みました。しかし、弁円を迎え入れた聖人の顔には微笑みがもれ、まるで弁円を包み込むようでありました。そのお姿に弁円は害心が跡形もなく消え、そして剣を投げ捨て大地にひれ伏し涙を流しました。
 弁円は「かかる円満具足のご聖人ともしらず、日夜命を狙っておりました私でございます。どうぞこの首を落としてください。お願いいたします。」と懺悔するのでありました。聖人は「この親鸞は一切衆生に仏の救いを信じせしめるために努力をしているのです。仏を拝む念珠は持つが、未だ人を切る刀剣を手にしたことはありません。」といい、御仏の教えを諭されました。
 かくて親鸞聖人を殺害しようとした弁円は明法坊という法名を賜り、稲田で聖人のお世話をするようになりました。そして明法坊弁円はのちに聖人のお供で板敷山を通るときに

 山も山 道も昔に かわれねど
 かわりはてたる わがこころかな

と詠み、過去を懺悔し回想したのでありました。