月見の宴

 

 親鸞聖人(十八公麻呂君)は日野の里、法界寺のほとりでお生まれになりました。父君は藤原有範卿、母君は吉光御前といわれる方で、平安時代の貴族の長男としてお生まれになりました。
 信心深い母君、吉光御前が常に長谷寺の観音に念じて藤原家の跡継ぎを願われ、観音の申し子として生まれたのでありました。ところが、十八公麻呂は二歳になられても口を一文字に堅く閉じ片言も話されませんでした。まわりの人々は奇異の感に打たれていました。
 そんな八月の十五夜、人々は月見の宴を催されました。
 父君、藤原有範卿のひざに抱かれてじっと空を見上げておられた松若君(十八公麻呂)は、月が天中高く冴え渡ると同時につかつかと前に出られて、両手を合わせつきを拝み「なむあみだぶつ」と一声称えられました。人々はその声を聞いて驚き喜びの声をあげるとともに、松若君が非凡の和子であると歓喜せられたのでありました。